センター概要
センター長挨拶
イノベーション政策研究センターは、平成20年3月に工学系研究科総合研究機構内に設置された組織であり、知識の爆発、イノベーションのオープン化、加速化、それによる社会課題解決への期待の高まり等といった新たな環境下において、イノベーションを戦略的、効果的に進めるための技術経営企画、科学技術政策の立案や意思決定に貢献する技法群やシステムを開拓し、その成果を社会に迅速に移転することを目指した研究拠点です。
こうした目的を達成するため、センターにおいては具体的に、①情報工学と経済・経営学連携による先端的な技法の開拓を中心とした研究開発、②技法の情報システム化、ウエブ・ディスカッション・ペーパーの刊行や産学共同研究を通じた技術移転、③月例のイノベーション工学研究会や国際会議等を通じた分野を超えた人的交流を3本柱とした活動を行っています。また、活動においては、技術経営戦略学専攻を初めとした工学系研究科内関連専攻、現場を持つイノベーションに関連した総括寄付講座等との連携を重視しており、その研究成果は、講義や学生指導等において実際に活用されています。
センター開設後、5年が経過し、研究成果がNHKスペシャルにおいて2度に渡って取り上げられた他、月例研究会が40回を数えるまでになり、技術経営分野における世界の代表的な研究・教育拠点から最先端の研究を行う研究者を招聘して国際会議を主催する等、社会からの認知が深まってまいりました。これも、研究会や共同研究等の活動に継続的に参加いただいてきた皆様の御蔭と深く感謝しております。
小さな研究チームでありますが、今後、研究力を充実させ、学術の発展と社会によりよく貢献するとともに、産学官の研究者や専門家が集い、濃密な知識の交流が出来る拠点となるよう、引き続き努力してまいる所存です。皆様の一層のご指導、ご支援をお願い申し上げます。
平成25年11月1日
坂田一郎
東京大学工学系研究科教授・工学部システム創成学科兼担
NEDO「学術・産業技術俯瞰プロジェクト」の発足について
平成25年7月1日より、本センターを基盤の一つとして、NEDO「学術・産業技術俯瞰プロジェクト」がスタート致します。これには、本センターで平成20年以降実施してまいりましたNEDO「イノベーション政策研究講座」の成果、すなわち、イノベーション・技術経営の高度化に寄与する情報工学的技法、開拓した技法を実装した「学術俯瞰システム」及び産学官の人的なネットワークを最大限活かしていく方針です。
今日、科学技術イノベーションに関する情報は爆発的に増加しています。例えば、太陽電池については、主要な国際論文誌に掲載される論文数は、90年代には年間数百本に過ぎませんでしたが、今日では年間4000本に達しています。こうした大量の情報は電子化され、世界のどこでも入手可能であり、イノベーションに関する経営戦略の立案や推進プロジェクトの評価等(技術経営)やイノベーションに関する政策形成に利用可能なものであると認識されています。しかしながら、実際には、情報量が多すぎ、知識の全体像や潮流、未来像が見えにくくなっている、自社又はイノベーション戦略を担う機関にとって有用と考えられる知識だけを抽出することが難しい、大量の情報に埋もれているため提携すべき相手又は潜在的な競合相手等も見出すことが難しくなっている、との意見が多く聞かれます。また、従来、技術の潮流の把握や予測等に用いられてきた専門家ワークショップ(代表的には、T-Plan法)のような人的な活動を中心とした手法については、技術の変化の加速や専門家の知識の細分化により、限界に直面しているとの認識が強まってきています。こうした問題により、現状では、大量の有用な知識を科学技術イノベーションの効果的・効率的推進のために活かしきれていない状況にあると認識しています。
そこで、本プロジェクトでは、計量書誌分析、自然言語処理、ネットワーク分析および機械学習などの先端の情報工学技術を高度化しつつ組み合わせて用いることで、こうした問題を解決し、科学技術イノベーションの効果的・効率的推進、すなわち、経営戦略の立案、プロジェクト評価等企業における技術経営の高度化や科学技術イノベーション政策の高度化につなげることを目指します。具体的には、それらの技法により大規模な学術論文や特許情報を分析し、1.萌芽領域、2.萌芽領域の関連領域、3.萌芽領域における有望な研究者およびその共同研究体(グループ)、を自動特定する技術およびシステムの研究開発を行ってゆきます。研究開発を行う自動特定技術は、大規模な学術・特許情報を対象にした機械学習に基づく予測技術です。そのために、大規模学術・特許情報から様々な特徴量を抽出し、それらの特徴量から機械学習を用いて萌芽領域、関連領域、有望研究者・グループの予測を行うモデルを構築します。更に、それら「予測」に関する技法群をイノベーション政策研究講座で開発した「学術俯瞰システム」(主に現状の客観的把握機能を持つ)の上に付加、統合する形で実装し、企業、官庁等の方々の協力を得て実験を行い、有効性、有用性等の確認を行うことで、頑健性、操作性が高く、インタラクティブな操作が可能なウェブシステムを完成させたいと考えています。こうしたウェブシステムは、企業の経営幹部や政府の政策担当者の方々に対し、1.投資先候補と考えている技術分野における技術の世界的な潮流、構造変化、分野内で研究が盛んになっているテーマ、注目されている研究者・研究チーム・研究機関、自社が強みを持つ技術群と補完的技術領域の把握、学術知識と産業技術との内容的な関係性等の現状に関する情報、2.将来・有望な萌芽的領域、その萌芽的領域を発展させるために重要な周辺領域、将来有力・有望となる研究者・共同研究体制(グループ)の予測等といった一連の情報を一体的に提供することが出来るのではないかと考えています。これにより、現状に関する多様な客観的理解、将来に関する合理的な見通しを一体的に持って、投資対象、時期及び規模、視野におくべき補完技術等の範囲、研究開発の推進組織(提携先を含めたチーム)、競合先として監視すべき対象の判断や特定をすることが可能となることが期待されます。こうした技法群及びウェブシステムは、従来型の専門家による手法と比較すると、環境エネルギー技術、新素材、情報通信技術等のように、技術の革新のスピードが速く、知識の構造が定まりにくく、補完的な技術が多くあり、有望な研究者やグループの交代が目まぐるしい領域で特に優位性が高いものと考えています。
今後も、皆様から引き続き、イノベーション政策研究センターにおける技法の開拓及びシステム開発に対する助言やノベーション工学研究会における意見交換等にご協力を賜れれば幸いです。
東京大学工学系研究科 教授 坂田一郎
当センターのこれまでの歩み
イノベーション政策研究センター(センター長:元橋 一之 教授、研究代表者:寺井 隆幸教授)は、2008年3月、東京大学 大学院工学系研究科 総合研究機構内に設立されました。
我が国の社会生活や産業にとって、環境・エネルギー問題、BRICs諸国の急成長、南北問題等に見られるように、地球的な視点に立った科学技術に基づく国家戦略の構築がますます重要になってきました。本研究センターでは、科学技術政策および産業政策の策定と評価を学術的に研究することを目的として研究を実施するとともに、具体的な政策提案を行い、政府関係機関および国際機関と積極的に議論を積み重ねその有効性を評価してまいりました。
科学としての政策立案および評価には情報収集・分析・構造化に関する情報技術の開発が必須です。したがって本研究センターではこれに関連する情報科学の研究を推進するとともに、これを応用した、イノベーション昂進のモデルと推進政策の研究、地域経済振興のためのクラスター形成のモデルと推進政策の研究、中小企業・ベンチャー企業支援の政策研究を行ってきました。それぞれの研究プロジェクトは、本学と国際機関および企業との連携しながら、該当する専門知識を持つ教員および専門研究員、ポストドクター、学生からなるグループ研究として推進し、さらに、中国、韓国、ASEAN等の有力大学との連携を強化し、アジア共通のイノベーションモデルと推進政策を提言してきた実績があります。