国際会議発表報告 APEC2011


APEC イノベーション・投資・技術会合

  アジア太平洋経済協力会議(APEC)は、1989年に発足し、今年で22年目を迎えます。 APECのアプローチは、WTO等による加盟国を法的に拘束する協定等を締結し、その実施を監視していくようなアプローチとは異なり、緩やかな合意形成によって、各国の政策を方向づけていくところに特徴があります。昨年は、日本がホスト国であった関係で、横浜で首脳会合が開かれ、話題となりました。今年は、アメリカがホスト国となっており、11月にハワイで首脳会合が予定されています。ここでは特に、環太平洋経済連携協定(TPP)についてどのような前進があるのか、注目をされています。
APECは、発足時、貿易投資の自由化が中心的なテ−マでしたが、今日、それは、イノベーション、エネルギー、雇用、起業等に関する国際連携へと拡がりをみせています。このため、首脳会合までのステップとして、様々な会合が開かれることになります。9月の下旬は、サンフランシスコにおいて、エネルギー運輸大臣会合、高級事務レベル会合等が集中開催されました。
イノベーション研究センターの坂田一郎上席研究員(政策ビジョン研究センター教授、工学系研究科兼担)は、スピーカーとして招かれ、そのうちの一つである「イノベーション・投資・技術会合(APEC Conference on Innovation, Trade & Technology: The Benefits of Getting it Right)」に参加しました。
  2日間のこの会合は、アメリカ連邦政府CTO・大統領補佐官のAneesh Chopra氏によるCrossroads of Innovation, Trade and Technologyと題する講演で始まり、CEO会議、エネルギー・環境・運輸、金融・情報通信・電子商取引、中小企業・起業の3つのセッション、GoogleのAlberto Savoia氏らによる講演、パネルディスカッションという多彩な内容を含むものでした。
  アジェンダの共通点として、オバマ政権の政策やシリコンバレーの中心地での開催という性格上、ICTの急速な発展がもたらす効果を如何に早く効果的に引きだすかという点を強く意識していたことが挙げられます。
  議論の主要な項目としては、IT化の進展がエネルギー、ロジスチックスといった基幹分野やビジネスモデルに与えている影響、IT化が急速に進む社会と既存のルールとの適合性、ICTを利用したイノベーションを加速させるための供給・需要両サイドからの政策の在り方、オープンイノベーションを加速するために各国が共有すべき政策の基本原則、クラウドコンピューティングが進展する中でのプライバシーやデータの安全性確保の在り方といったものが挙げられます。
  坂田上席研究員は、エネルギー・環境・運輸のセッションにおいて講演をし、非競争領域である基礎科学・学術レイヤーにおけるAPEC加盟エコノミーの協力深化のための枠組み作りとその成果を社会において活かすための産学のより効率的なインターフェースの構築を提言しました。東アジアを含めた国際協力の強化の必要性については、座長総括にも取り入れられました。


今年で22年目を迎えるAPECに出席した坂田一郎上席研究員


坂田一郎上席研究員  講演概要

■イノベーションに関する よりオープンな協働の枠組み構築を

  21世紀に入り、イノベーションのモデルには、大きな変革がみられます。
 その第一は、イノベーションの源泉となる知の世界の変化です。変化のキーワードは、知の爆発、科学技術におけるアジアの急激な台頭、高まるサイエンスリンケージ、ICTを利用した知識の構造化による付加価値の増大の四点です。
  第二は、政策及び社会システムの進化とビジネスモデルの変化との共振現象です。
イノベーションは、気候変動、資源制約、社会の高齢化、食料や水の安全等の地球的な課題を解決する主要な手段とみなされるようになってきました。外部性を埋めるためイノベーションへの政府の関与が増し、また、イノベーションの促進のためのインフラとして新たな社会システム(制度の束)の迅速な形成が必要とされるようになっています。政策とビジネスとの距離が縮まっているといえます。
  地球的な諸課題の解決には、大量の科学技術知識と複雑な社会システム設計が求められます。一カ国だけで、又は、産学官いずれか特定のセクター主導で、迅速にこれを進めるのは困難であるといえます。そのため、アジア太平洋の領域で、国境を超えて、産学官がより深く協力をしあうプラットフォーム(オープン・イノベーション・プラットフォーム)をICTを利用しつつ構築することが有意義です。特に、APECの枠組みには、科学技術の水準を急速に向上させている中国、韓国、台湾、シンガポール等が参加しています。
  2008年の英文論文数についてみると、例えば、燃料電池分野では、中国が2位、韓国が4位であり、太陽電池分野では、中国が2位となっています。現時点では、まだ、これらの国々とその他の国々との科学技術協力は十分なものとはいえません。アジアの科学技術力を世界の残りの国々とより強く結び付けていくことが重要です。
  また、協力の成果をより早く世界に均展する仕組みの整備も重要です。このためには、APEC内において行われる新技術に関連する諸ルールの整備、例えば、標準、安全基準、認証基準、安全性等の測定方法の設定、導入インセンティブの設計、に関し、新技術の移転や新製品・サービスの貿易に対して制限的なものとしない、という原則の確認をすることが重要です。



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