国際会議講演報告 ミャンマーの経済・社会改革への協力


 坂田一郎教授(政策ビジョン研究センター、工学系研究科教授兼担、同総合研究機構イノベーション政策研究センター上席研究員)は、2月26日から3月3日までミャンマー(首都のネイピドーとヤンゴン)を訪問し、ミャンマー連邦共和国国家計画経済開発省と国際協力機構(JICA)との共催による2回のワークショップ(Workshop on Program for Economic Development)にて基調講演を行いました。

  現在入手可能な統計によれば、ミャンマーの一人当たりGDPはASEAN最低水準であり、また、経済の発展段階としても農業従事者が6割を占める農業国にとどまっています。一方、2000年以降、経済制裁下にもかかわらず天然ガスの輸出が拡大しており、また、恵まれた水資源や農業生産力、勤勉な労働力等に対し世界から注目が集まり、直接投資も急増しつつあります。民主化を掲げる新政権の下、経済・社会の構造改革、自由化に向けた施策が次々と打ち出され、特に、ここ半年間の変化は目覚ましいものがあります。多くの改革法案は議論途上ではありますが、工業大臣、商業大臣との会見でも改革への強い意志が感じられ、急成長前夜の状況にあると感じます。特に、工業省のロビーに掲示された標語“Resource is limited, creativity is unlimited”は印象に残りました。改革のタイムフレームとして、ミャンマーがASEAN議長国を務めることが決まっている2014年という年も強く意識されています。

  ミャンマー政府が掲げる重要な政策課題としては、農業を基盤とした産業化(Agro-based industrialization)、地域間の均衡のとれた成長、国民を広く巻き込む成長(Inclusive Growth)、雇用の創出があります。これら目標は、相互に連関したものであり、また、海外に流出している出稼ぎ労働者に職を提供することを含めた「雇用の創出」は改革への国民の支持を得るための重要な条件であると認識されています。改革の具体的な手法としては、金融・決済システムの近代化、二重為替の解消、国営企業の民営化又は官民連携体(PPP)、市場経済の中心としての中小企業(SME)の振興や中小企業金融、特区(SEZ)の形成、電源開発、各種統計の整備が代表的なものとして挙げられます。

 ワークショップには、日本に派遣された中堅官僚の研修生30名を含め150〜200名が集まりました。また、国家計画経済開発大臣、工業大臣、中央銀行副総裁ほかの政府要人も参加され、挨拶や基調講演をされました。この場で、坂田教授は、”Lessons from experience in Development and Growth Policy in Japan”と題した講演を行いました。そのなかで、多数の目標間のバランスの重要性、多数の個別政策間のトレードオフや補完性への意識の重要性、新興のSEZや工業地区を核とした地域クラスターの形成方策(日本の政策の経験やネットワークの形成要因等)、急成長するASEAN内のネットワークとの連結の重要性、政策形成や運営に当たって現場に興味を持ち深く知ることの重要性等を指摘しました。



活況を呈するヤンゴンの市場



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