APEC科学技術イノベーション政策パートナーシップ会合参加報告
東京大学工学系研究科教授 坂田一郎
7月1日、2日の2日間、インドネシアのメダンに於いて、2013年第三回高級事務レベル会合その他の集中会合の中で開催されたアジア太平洋経済協力(APEC)の「イノベーション政策パートナーシップ会合(APEC Policy Partnership on Science, Technology and Innovation、略称PPSTI)」に、日本代表団の一人として参加した。PPSTIは、本年より、従来の産業技術ワーキンググループを改組して設置されたもので、参加メンバーも、官のみでなく、産学の専門家にまで拡大をされた。
今回の会合の主たる目的は、この組織の活動方針(PPSTI Strategic Action Plan)を策定することにあった。PPSTIのビジョンとしては、中期的にイノベーションに牽引されたアジア太平洋の経済を実現すること等とされた。主要なミッションとしては、①科学的な能力を構築する、②イノベーションに適した環境作りの促進、③地域的な科学技術に関する連結性(Connectivity)を高める、の3点が掲げられた。その上で、それぞれに対応する①Capacity、②Innovation、③Connectivityの3グループに分かれ、主要な活動テーマとテーマごとのKey Performance Indicators(KPI)の討議、とりまとめを行った。また、このサブグループの下で、APECの科学技術関連のプロジェクトが多数、走るガバナンス構造となっていることから、進捗の報告等が行われた。
今回の会合で、特に印象に残った諸点としては、下記のとおり。
- レジリエンス
- PPSTIによるアジア共通の諸課題への取り組み
- ASEANの”Connectivity”概念のAPECへの浸透
- 中国による先端科学技術プロジェクトのリード
- 情報工学的手法を活用した学術分析などの技術経営関連のプロジェクト
今年のAPEC全体の主題として、Resilient Asia-Pacific and Engine of Global Growthが掲げられている。 広い意味でのレジリエンスへの関心の高さが伺われる。APEC内の別の場であるが、日本(幹事)からレジリエンスに関する研究プロジェクトの報告が行われている。
スマートシティのような世界共通の課題に加え、洪水の予測・災害に対する備え(Drought Prediction、Disaster Preparedness)、薬草の安全性や品質に関する標準の策定、海洋のサステナビリティ、繊維産業の低炭素化、感染症対策など、アジア特有の課題に対する多国籍プロジェクト等が目につくものであった。(インドネシアが選定した今年のAPECの若手科学者賞ASPIREも対象領域も海洋であった)
ASEAN統合に向けた活動の中で多用されている”Connectivity”の概念が、本会議の3本柱の一つとして位置付けられた。内容的には、科学技術面での協力拡大である。また、APEC PPSTIとASEANとの共同活動も発表された。なお、今年は、APECとASEANのインドネシア年が重複している。
来年の主催国は中国であるが、現時点においても、スマートシティに関するイノベーションや技術協力、自動車とインターネット(Internet of Vehicles)のような先端技術分野のプロジェクトを主導している。
技術経営に関連する2つのプロジェクトがスタートしている。一つは、Innovation Service Chain Based on IT(幹事:中国)である。ITを用いたイノベーション支援のプラットフォームを作ろうとするもので、特許分析ツールも含まれる見込みである。今一つは、Development of Methodology and Analysis of STI Co-operation in APEC Region(幹事:ロシア)である。内容は、APEC内における協力構造の分析を進めようとするものである。詳細はこれからであるが、共著分析は有効な手法となると考えられる。国際的な政策コミュニティにおいても、情報工学系の手法の活用領域が広がっていることが窺えた。
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